遭難



私はバイトのため国見町にいた
合間ができたために国見から雲仙方面への山間部を探検することにした
これがドラマの始まりである

想像力を働かせて読んで欲しい

時間は五時頃であった
国道389号線を南下、雲仙方面に向かっていた
大変山深いところで
あたりには林しかなく民家は陰すらなかった
電柱もない状態である

山には雨が降っていた
日は落ち始めていた
さらに濃い霧が立ちこめていた
視界は5mほどであった


ふと、国道の右手に赤い鳥居が見えた
その奥へと車一台がやっとの林道が続いている
興味を引かれて更に山奥へ入り込んでいくことになった

林道はいくつもの分岐点を持ち
思うがままに進んでいった

どうやらここは自然公園らしい
ほんとの自然公園で建物や遊具はない
ただ林が続いているだけである

水辺のゾーンという公園の一角にたどり着いた
貧相な舗装道路から山に向かって
舗装されていない林道が続いていた

車は向きを変え、進んだ
道は200mほどでとぎれていた
よくあることである

Uターンする場所もないのでバックで下ることにした
進むうちに車はぬかるみへとはまってしまった
前進して抜け出そうとするが
不可能であった

仕方なくぬかるみにはまったままバックで下り続けて
行く方法を採ることにした
しかし自然は甘くなく車は完全に動かなくなってしまった

山は完全に日が落ち暗くなり始めていた
ただ雨の音のみが聞こえていた

周囲5kmほどに民家はない
救助を要請した
水産の親友と老犬号の二台が要請に応じてくれた

日が落ちるまでに作業を少しでも進めたかった
荷台に常備してある道具を取り出した

ガス式のサーチライトを点灯した
泥に埋もれた車の姿が浮かび上がった
車内にも懐中電灯を設置し明かりを確保した

次に簡易スコップとつるはしを取り出し
土砂を崩し、車を掘り起こすことにした
30分ほどで周囲は闇にとざされた
暗い中の作業が続いた
しかし気がかりな事があった

野獣の遠吠えが聞こえるのである
低い声が山に響いていた
「おおおおぉぉぉぉぉぉ」

暗い中を作業していたがいい加減気味が悪くなり
車内に閉じこもってドアをロックした
現在地は国見、長崎を出発した救助隊は到着まで二時間はかかるだろう

谷間ということもあり、携帯の電波の状況が非常に悪かった
第一陣の救助隊(水産隊)が付近までやってきた
19:30頃のことであった

しかし、私が入山したときよりも霧が深くなっているようで
国道から林道への入り口がわからないようだった
救助隊も電波の状況が悪く
切れ切れの携帯のやりとりで誘導した

だが事はうまく運ばない
そのうち老犬号も現場付近の国道までやってきた
二台の救助隊は入り口を必死に探していた

始めにその突破口を開いたのは水産隊であった
ホーンを鳴らしながらやってきた
こちらもホーンで返す
入り口さえ見つかれば10分ほどで到着した
20:30頃のことである
SOSから現場到着まで三時間以上かかった

水産隊に頼んでいた救援物資が到着した
大きな鍬とスコップの登場である

これは掘り出しの効率がぐっと上がった
30分ほど掘っていたところで
老犬号も到着した
おしりと老犬、おかっちさんが仲間に加わった

一時間ほど掘り返し老犬号の牽引でひきずり出すことができた
下はその車である


歓喜の声が挙がった
遭難から4時間後やっと救助された
長い一日であった


車と俺




遭難現場、後日撮影
掘り返され、切り崩された斜面がわかると思う
ここにすっぽり車は入っていた